Q1:どうして花粉症になるのですか?
まず花粉を何度も吸入するうちに身体に、花粉に対するIgE抗体というものが作られます。しかしIgE抗体がある一定量に達するまでは無症状ですが、増えたIgE抗体は鼻粘膜にある肥満細胞という免疫細胞にくっついていきます。
ある一定量以上にIgE抗体が増えた状態で花粉を吸入するとIgE抗体が橋渡しをするように、花粉の抗原が肥満細胞に吸着されます。そうすると肥満細胞が活性化してヒスタミンやロイコトリエンという化学伝達物質を放出します。
ヒスタミンは三叉神経を介してくしゃみ中枢を刺激してくしゃみを生じたり、鼻腺に直接作用して鼻水を分泌させたりします。また、鼻の粘膜の毛細血管を拡張させますから、粘膜の容積が増えてその分鼻がつまりやすくなります。また血管の透過性を亢進させますから色々な炎症性の細胞が作用してさらに炎症が強くなるのです。ロイコトリエンもまた同様の機序で、鼻づまりを生じます。
Q2:花粉症にかかる年齢は何歳ぐらいからか?赤ちゃんは花粉症になりますか?
花粉症になるにはある程度の花粉の吸入が必要となります。最短では2シーズン目で発症する可能性がありますから、2歳近くなれば発症することがありえます。乳児で花粉症まずないと考えられますが、年中身の回りにあるハウスダスト・ダニは0歳で感作が成立して発症することもあり得ます。
Q3:花粉症の症状にはどんなものがありますか?
くしゃみ、鼻水、鼻づまりが主な症状です。風邪との違いは、「くしゃみがより多いこと」、「透明な鼻水が続くこと」などですが、初期には区別のつかないことがあります。
喉の症状として、乾いた咳、比較的さらさらした痰、イガイガ感など。
目の症状として、痒み、涙目、充血など。
皮膚症状として顔面など露出部の痒み、肌荒れなど。
全身症状として、微熱、だるさ、抑うつなどがあります。
合併症としては、嗅覚障害、気管支喘息、副鼻腔炎、滲出性中耳炎、睡眠障害などがあります。
Q4:花粉症が発症しやすい環境ってありますか?
花粉の量:まず花粉の多い環境では花粉症は発症しやすくなります。花粉症の全国調査でも、地方により花粉症の有病率には差があります。
大気汚染:硫黄酸化物(SOx) ,窒素酸化物(NOx) ,オゾン(03)は気道過敏性を高め, 鼻粘膜組織障害の原因にもなります。ディーゼル排気粒子はIgE産生を亢進します。最近では黄砂も表面に化学物質を吸着しやすいことから、花粉症増悪因子として注目されています。
清潔な環境:細菌感染があるとその制御のために免疫機能が動員されますから、アレルギーが起こりにくくなります。逆に清潔な環境ではアレルギーが起こりやすくなります。
Q5:花粉症にかかる人はなぜ増えているのですか?
スギ花粉の増加:林業の衰退に伴いスギの新たな植林が減って、その代わりに成熟したスギの木が伐採されずに放置されるようになりました。スギの木は樹齢30〜40年で
多くの花粉を飛ばすようになりますが、その樹齢に当たる木が多くなったのが一番大きな原因です。花粉を飛ばすスギの木を減らしていけば花粉の量も減るわけですが、そうしますと二酸化炭素の吸収が少なくなります。地球温暖化の問題が二酸化炭素増加に関係していると言われている以上、スギ林も貴重な資源ですから簡単に伐採するわけにも行かないということです。
ストレスの増加:近年社会が複雑化していることにも伴って、大人も子どもも受けるストレスの量は増大していると考えられます。ストレスはアレルギー憎悪因子と考えられますから、花粉症の増加に関係している可能性があります。
衛生的な環境:細菌感染がアレルギーは抑制しますが、家屋などの環境はかつてよりも衛生的になっていますから細菌との接触の機会はへっており、そのため花粉症を初めとしたアレルギー疾患が増えていると考えられます。
Q6:遺伝しますか?いったんかかってしまうと、治らないものですか?
花粉症そのものは遺伝しませんが、アレルギー体質は遺伝します。日本人においても、両親がともにアレルギー性鼻炎などのアレルギーを患われている場合は、両親ともにアレルギーがない場合に比べ子どもが鼻炎にかかる危険性は約4倍になるという報告があります。
小児では、いったん花粉症になると自然に治ることはほとんどありません。治療でも唯一治す方法が減感作(脱感作療法)というものです。二年以上治療することにより、半数近くに症状の改善が認められます。
Q7:鼻かぜやアレルギー性鼻炎との違い、見分けるポイントはありますか。
(まず、花粉症とはアレルギー性鼻炎のうちの原因が花粉のものをいいます。
ですから、鼻かぜと花粉症を初めとしたアレルギー性鼻炎の違いということで説明させていただきたいと思います。)
鼻かぜは原因がウイルスですから、周囲に鼻かぜを引いている人がいなかったかが一つのポイント。アレルギー性鼻炎はホコリ・ダニなどによる通年性アレルギーと、花粉症などの季節性アレルギーに分けられます。通年性アレルギーは流行に関係なく、ホコリの吸入などにより発症します。季節性アレルギーは毎年同じ時期に症状が出ないかが一つのポイントとなります。原因となる花粉もスギだけではなく、色々な雑草などの花粉もあります。スギ花粉は3月から4月、イネ科雑草花粉は5月から7月、キク科雑草花粉は9月から10月頃に多く飛散しますから、発症の時期により原因の推定が出来ます。
症状は鼻かぜでも、アレルギー性鼻炎でもくしゃみ、鼻水、鼻づまりが主症状ですが、くしゃみはアレルギー性鼻炎の方が比較的多いようです。鼻水は初期にはいずれも透明に近く粘り気が少ないのですが、かぜでは徐々に粘っこく黄色い鼻汁に変わっていくのに対して、アレルギー性鼻炎ではサラサラした鼻水がいつまでも続きます。
風邪では発熱や咽の痛み、ゼロゼロした痰のからんだ咳などが出現しやすく、アレルギー性鼻炎では発熱はあっても37℃程度までですし、咳は風邪よりは少なく乾いた咳であることなどが異なります。
ただし、初期には症状だけで区別することが出来ないこともあります。耳鼻科では鼻水を綿棒などで採って顕微鏡で細胞を調べることにより、アレルギー性鼻炎と鼻かぜの判別が出来ます。また、採血によって特異的IgEの量を測定することにより、アレルギーの原因を調べることも出来ます。
Q8:花粉症の予防接種は、いつ頃までに済ませておくべき?子どもでも受けられますか?
花粉症に予防接種はありません。減感作療法あるいは脱感作療法というのはあります。
これは原因となっている抗原を特定し、そのエキスを少量から初めて徐々に量を増やしながら定期的に皮下注射を行っていく方法です。効果が現れるまでに2年程度かかります。スギ花粉症の治療として行う場合には、いつ始めてもいいのですが、次のシーズンに少しでも効果が現れるようにするには遅くとも秋までには始めたいところです。
子どもでも出来ますが、週1回の皮下注射が必要ですから、無理なく受けるには三,四年生以上ぐらいが対象となります。
Q9:自分でできるセルフケアは?
アレルギー性鼻炎の症状を起こしにくくするためには、ハウスダスト・ダニ対策としては、換気をまめにして、水拭きを中心として掃除をまめにします。カーペットは使わない様にしましょう。ペットを飼う場合は特に抗原性の高いネコはお勧めできません。イヌもネコに次いでアレルギーが多いので極力飼わないことです。それでも飼いたい場合は外で飼うことですが、どうしてもそれが無理であれば、少なくとも一緒には寝ないこと、ブラッシングの際にはマスクを付けて行うことです。
花粉症対策はまず花粉情報に注意を向け、花粉の多い日の外出は極力避けることです。どうしても出かける場合はマスク、眼鏡などで予防です。衣類は毛、フリースは避けて綿など表面が平滑なものを選びます。帰宅後はうがい、洗顔をしましょう。
原因になっている花粉がはっきり分かる場合、あるいは毎年同じ時期に症状が出るのであれば、その花粉が飛んでいる時期や症状の出やすい時期には布団は外に干さず、布団乾燥機を使う様にします。洗濯物にも外に干している間に花粉は付着しますから、はたいてから取り込むようにするといいでしょう。
家の中にタバコを吸う人がいると、お子さんも副流煙を吸入してそれがさらに鼻の粘膜を痛め、症状が強く出やすくなります。お子さんのいるご家庭では禁煙か、それが無理であればお子さんが副流煙を吸わない工夫が必要となります。
ストレスもアレルギー性鼻炎の症状を強くすることが知られていますので、ストレスは上手に解消することが大事です。
鼻の粘膜は睡眠中にコンディションを整えるように出来ています。睡眠不足になりますと、活動している間に受けた粘膜のダメージが翌朝に持ち越されますから、アレルギー性鼻炎の症状が起きやすくなります。症状軽減のためには睡眠時間も充分に取るようにしましょう。
食事は高蛋白食が抗体を増やすのでアレルギーを起こしやすくなると言われていますが、成長期では特に蛋白質も必要となりますので、お子さんの食事を自己流で制限するのは良くないでしょう。また極端に辛いものなどの刺激物は、アレルギー性鼻炎の症状を強くしますので避けましょう。
Q10:花粉症にならないための予防法があれば教えてください。
まず、自分、あるいはお子さんが花粉症になりやすい体質、すなわちアレルギー体質かどうかを知ることです。血のつながりのある方にアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎の方がいらっしゃれば花粉症になりやすく要注意です。
もし花粉を全く吸入しない環境が実現できれば予防可能ですが、それには花粉のないところに引っ越すしかありません。スギであれば、北海道か沖縄ということになりますが、まず現実的ではないと思います。
次の対策としては、発症前から極力花粉を吸入しないことです。「花粉情報に気を付けて多い日には出来るだけ外出しない。」、「外出する場合はマスクやゴーグルなどを装着する。」などの自衛ということになりますが、実際問題として発症していないのにここまでやる方はまずいないと思います。
結局のところ、実際にはかかってからいかに重症化させないかが大事です。一つには花粉を身体に近づけさせないセルケア、体調管理、ストレスのコントロールです。もう一つは早めに耳鼻科を受診して相談することです。発病してからは、初期治療といって症状の出る前から抗アレルギー剤を内服するのが最も基本的な治療法となります。以前の抗アレルギー剤や薬局で売っている鼻炎薬には眠くなる成分が入っていますので、人によってはなかなか常用出来ないものでしたが、最近開発された抗アレルギー剤は眠くならないものの多く、初期治療に適しています。是非早めにご相談されることをお勧めしたいと思います。